9月19日(水)。

HOPE80の一行は、佐世保を出発し、いよいよ長崎へと向かいました。

青く澄んだ空の下、海辺を走る道。

遠くには島々が浮かび、美しい景色を見ながら走ります。

自転車のペダルを踏むたびに、心の奥にあった澱(おり)のようなものが

風に吹かれて消えていくのを感じました。

走ることは、祈ること。

祈ることは、生きること。

そんな想いが胸に浮かびながら、一行は静かに長崎市内へと入っていきました。



 平和公園にて ― 希望のゴール

午後3時過ぎ、ついに長崎市の平和公園に到着。

アースキャラバン長崎の新海智弓さんをはじめ、

地元の方々、報道陣が温かく出迎えてくださいました。

「HOPE80 JAPAN」ピースサイクリング、ゴール。

笑顔と拍手に包まれながら、ゴールテープを切りました。

誰もが「ありがとう」と声をかけあっていました。

そのまま一行は平和祈念像の前へ。

花を手向け、到着の感謝と報告を捧げます。

そして、改めて――

核のない、平和な世界の実現を全員で祈りました。

シンポジウム ― 平和を語る声、未来へ響く言葉

献花のあと、一行は長崎市平和会館へ移動し、

長崎青年会議所(JC)が主催するシンポジウム

「HOPE NAGASAKI〜長崎から未来へ希望を繋ぐ〜」に登壇しました。

少し休息をとった後、会場に向かうと、そこにはすでに静けさと期待が漂っていました。

はじまりを告げたのは、長崎純心高校コーラス部による歌。

その澄んだ歌声が、まるで祈りのように会場全体を包み込みました。

そして、HOPE80のメンバーたちが登壇。

それぞれの家族や国の歴史を背負いながらも、

自らの言葉で「平和」を語りました。

 

ジェニファー・テーゲさん(ナチス収容所所長の孫)

「私はDNAを信じていません。

自分が何になるかは、自分で決められます。

平和とは、育てていくもの。

心の中の平和と社会の平和は切り離せません。

もし怒りが生じたら、それを正しい方向へ向け、

ポジティブな行動の原点に変えていく――

その “心の訓練” が必要です。

東條英利さん(東條英機元首相のひ孫)

「今まさに戦争をしているロシアとウクライナが、

今すぐに和解するのは難しいかもしれません。

けれど50年後、100年後――

『第二次大戦の敵同士は和解していた』と語り継がれる未来を信じたい。

その希望を、いま皆さんと創れることに意味があります。」

クリフトン・トルーマン・ダニエルさん(トルーマン大統領の孫)

「東條英利さんと出会って、

学校で教わった “東條英機” とは違う姿を知りました。

長崎に来ると、いつも平和を感じます。

灰の中から、新たな美しいものが生まれている。

ロシアもウクライナも、ガザも、

いつか必ず和解できる日が来ると信じています。

トーシャ・ガンジーさん(マハトマ・ガンジーのひ孫)

「誰であるかよりも、何をするか

目の前の人にどんな言葉をかけるかが大切。

それこそがレガシーであり、使命です。

80年前、爆弾が都市を破壊したけれど、人々の魂までは破壊できなかった。

悪は、いつも人々の良い魂によって打ち負かされる。

彼らの魂は、今も生き続けています。」

マガリ・ブロシュさん(ユダヤ人収容所生還者の子孫)

「私は紛争地に行くと、心の深いところで人々とつながろうとします。

すると、その奥底から “希望” が生まれてくるのです。

今ガザで起こっていることを、止める責任は私たち全員にあります。

お互いを思い合う心があれば、

平和はあなたから、今ここから生まれていく。

会場からは、温かく力強い拍手が沸き起こりました。

主催の長崎青年会議所(JC)の方が、事前のミーティングでこう語っていました。

「被爆者・過去という観点からだけでなく、

希望を感じるような “未来に向けた平和の会” にしたい。」

その言葉どおり、この日、まさにその願いが実現したように思います。

会場には多くの学生や子どもたちの姿もありました。

真剣な眼差しでスピーチを聴くその姿に、

 “未来への種” が静かにまかれていくのを感じました。

シンポジウムが終わり、控え室に戻ると、

子孫たちは、次週に長崎で行われるイベントに向けて、

それぞれの願いをキャンドルに書き込みました。

小さな炎のひとつひとつが、

この日の祈りと希望を、未来へ運ぶ光となることでしょう。

希望の火、未来へ

その日の長崎は、穏やかな夕陽が街を包んでいました。

メンバーたちは静かに語り合い、

それぞれの胸の中に「平和」という言葉を深く刻み込みました。

80年前に傷ついた街で、

いま、かつて “敵” と呼ばれた人々の子孫が手を取り合い、

一つのことを共に成し遂げ笑い合う。

その光景こそが、HOPE80 JAPANの答えでした。

平和は、どこか遠くの理想ではない。

私たちの心の中から始まる、日々の選択であると思います。

こうして、祈りの旅「HOPE80・ピースサイクリング」は、

長崎の地で静かに幕を閉じました。

けれど、その希望の火は、これからも消えることなく、

人と人の心の中で燃え続けていきます。

希望をつなぐ旅はまだ続く

小さな炎がゆらめくキャンドルの灯りを見つめながら、

誰もが静かに心の中で祈っていました。

「この光が、次の誰かの希望になりますように。」

平和への祈りは、言葉を超えて、世代を越えて受け継がれていく。

そう感じた長崎の夜でした。

こうして、福島から始まったHOPE80 JAPANのピースサイクリングは、

長崎でひとつのゴールを迎えました。

けれど、旅そのものはまだ終わりではありません。

祈りと希望のバトンは、新たなステージへ――

次なる地、大阪万博、そして京都へとつながっていきます。